■でも、やっかァ
2回続けて式根島へ行った。
1回目はもちろんイシダイ。
鯛房岩の東向き、絶壁の中段で速い潮に手こずっていた。
30mほど投げた仕掛けが足下の岩壁まで転がり、
ぶつかって左へ流れていく。
竿先は激しく揺れ、打ち返す回数が多い。
何かの拍子に腰を痛め、ウツボ5本でリタイア。
で、次の月の釣行。
まだ腰の痛みは残っていたが、やめるというわけがない。
「上物でもやっかァ」と、にわか仕立ての上物師。
磯2号カーボンロッド、LBリール買い込んで、「でも上物師」の出来上がり。
100名で新島、式根島の定期船をチャーターしての釣行だった。
一通り、参加者が磯に収まったのを見計らい、渡船の着いたのがハタカ根。
上物場は参加者で埋まり、残っているのは本島向きのモロコ場だけ。
前の釣行でモロコを攻めた相棒が、
「ツムブリ、まわったよ」というからとりあえず竿を出す。
が、相棒が横でモロコ竿放り込むから、やりにくいこと、このうえなし。
左に寄って高場でコマセを打った。
竿を出さずに30分、せっせとコマセ打ち。
イシダイ師でも、これぐらいのセオリーは知っている。
潮は透けていた。底の方にチラホラ、メジナが見え出して竿を出した。
■術なしの一発目
30~35cmクラスが釣れ始めた。
これぐらいなら、なんとでもなる。楽しくなってきた。
底を覗くと大きな魚が見える。
イスズミか、あいつが食うと手こずるかな。
チラッとそんな思いが浮かんで消えた。
ス~とウキが沈んだ。合わせる。そのまま突っ込んだ。
1段、2段、3段、クロダイならここで止まる。さらに突っ込む。
4段、まだ突っ込む。5段入って竿はノサレ状態。

どうする、おまえ。
咄嗟にブレーキレバーを緩めた。突っ走る。
ゴリゴリ、ゴリ...といやーな感触があって、5号のハリスが切れた。
残ったハリスは根ズレでザラザラ。しばし呆然。
「止められない。アイツはパワーがあるからな」
まだイスズミだと思っている。
バラシて一旦散った魚が、20分ほどして戻った。
ハリスは1号上げて6号。
1、2匹、レギュラーサイズを釣ったあと、
またしても、ギューィンと竿ごと持っていかれた。
さァ、どうする。頑張ってみるか。
竿尻腰に当て、貫目イシダイ引き抜くように、力と力で引っ張り合い。
ギューンと糸鳴り。負けるもんかとこらえる。
プッツン。
スレてもいない6号ハリスが、なんとハチ切れた。
■三度目の正直
二度目のバラシで魚がいなくなった。
またも30分、コマセを打つ。
そのとき、モロコ場の相棒が「きたっ」。で、サポートに駆けつける。
竿が岩に張りついていた。足場が悪い。
前に回って竿の下に屈み、肩に担ぐ。
ほんの少し、竿が起きた。
次の瞬間、腰に劇痛。魚の引きに負けて座り込んだ。
60号の道糸が簡単に切れて、ジ・エンド。
「腰の痛いお前にサポート頼んだのが、間違いだよな」
めったにこない、モロコをバラシた相棒が淡々といった。
恨み言もいわない。ほんとに、いいやつだ。
自分の釣り座に戻って、コマセ打ち再開。
魚影がでてきた。またきたらどうする...と悩む私。
この日の釣りを諦めた相棒が横でいう。
「所詮はイシダイ師のメジナ釣りさ。もっと自在に動いてご覧よ」
彼が横にいるうちに三度目がきた。
今度はあっちへヒラリ、こっちへヒラリ。
次第に魚が浮いてくる。ついに水面に横たわった。
「でけぇぇ。オナガだ」
そういって、タモを持った相棒の手が一瞬止まった。
60cmは優にある。新聞紙広げたような、尾長メジナが横たわっていた。
二人の手が止まった次の瞬間、
魚はゆっくりとヒラを打ち、海の底へ消えていった。
二人が顔を見合わせ、やや間をおいて、
「所詮はイシダイ師のメジナ釣りだな」と相棒が同じ言葉を繰り返した。
■石鯛竿を封印する
帰りの船の中で、当時、一流といわれた上物師をつかまえる。
この日の出来事を訴えた。
笑いながら聞いていて、
「そんなに悔しかったら、今日限りイシダイ竿を封印しなよ」。
それができるなら、この竿上げるわァ。
よしっ、そうする...とは言葉の弾み。
大型メジナを仕留めるまではと、イシダイ竿を棚に上げるハメになった。
同じハタカ根で、50cmオーバーを釣ったのは石鯛竿を封印して1年後。
八丈島での第3回G杯グレ釣り選手権全国大会へ、
出場することになった顛末は、またこの次。