「雲行きが変わったら、すぐ戻りなさいよぉぉ。
あんただから出すんだからねぇ」
わかった、わかったと桟橋離れ、山崎のミオヘまっしぐら。
が、夜中に前線が通るという。
手のひら級のカイヅッコが入れ食い。
宵のうちは2歳クロダイ交じりで、
朝までやったら束に数も届こうか、という勢いだった。
それでも、空見上げては雲行き眺め、まだいい....... と2、3匹釣る。
まだいい、まだいい...... で零時をまわる。
3時過ぎ、にわかに雲脚が速くなった。
カキ棚まわって、1番ミオに出た頃にはバケツの水をぶちまけたよう。
で、大橋が見えない。どこにいるのやら。
どこに向いているのか、とんと分からなくなった。
自分のカンを信じて、カタツムリが這うように船を進める。
と、大橋下のカキ棚にぶつかった。船縛りつけて、夜明けを待つ。
ようやく戻ると桟橋にオジさんの姿。ああ、よかった..... と。
それ以来、無理はしなくなった。他人に迷惑かけちゃいけない。
浜名湖をナメちゃいけない。荒れたらこわい、と身をもって知ったのだ。
14フィートに15馬力、全開にすると、舳先持ち上げすっとんでいく。
白洲から中之郷まで2往復すると、20リッターが空っぽ。
まるで浜名湖の暴走族。
その日はサヨリ釣り。浜名湖のサヨリ釣りが流行り始めた頃だ。
三角瀬に勢いよく突っ込むと、ガリッとペラに嫌な感触。
案の定、ピンが折れた。
仕方ないからパンツイッチョで水に入り、
ペラの下にTシャツの裾広げてピンの交換する。
こっそりパンツ脱いで、直接ジーンズはき、舳先に立てた竿に干す。
ひらひらと、1時間もすれば、すっかり乾く。ちょっとの塩気は帰るまでの辛抱。
ある時、山崎のカキ棚まわって瀬に出ようとした。
ボトボトボト.......... とスロー前進。と、突然うしろに引き戻され、ストンと尻餅。
見れば違法の三枚網、見事にペラの軸に巻き付いていた。
闇を透かしてみれば、向こうもこっちの様子を伺う。
「お~い、こっちにきて外せ~」と声掛けたら、違法の後ろめたさで逃げていった。
夜の場合はスッポンポン、フリチンで水に入る。
最近はいいよね、ペラに負荷がかかればエンジン自動停止。
夜目に慣れれば。ライトないほうがよく見える。
3番ミオ下って、和田ミオに曲がる。
と、ブォォォォ。浅瀬に突っ込んで、ひっくりかえった。
当然、ピンは折れている。水深は膝ぐらいのもの。
修理しようと工具箱みたら、予備ピンがなかった。
幸い、和田ミオ西の浅瀬はごく浅い。
船を引き、東に向かって歩き始めた。貸船屋まで行けばなんとかなる。
歩けないというよりも、この場合はキビレハンターの狩猟本能が勝る。
潮の動きを見定め、錨を入れて竿を並べた。
片一方の竿を足で押さえてのうれしい悲鳴。
朝までの3時間、ほとんど入れ食いでキロ級を9枚。
私のキビレの生涯記録は、浅瀬に突っ込んだ結果のケガの功名。
愛艇を14フィートと小ぶりにしたのは、このポイントが絡む。
当時から養殖カキは見当たらず、古い竹杭だけが立っていた。
このポイント、キビレがいるか、いないかの両極端。
くる、との感触は宵のうちに出て、
21時までにクロダイの2枚も釣っていれば、深夜に必ずキビレがくる。
宵のうちに小型を3枚釣り、2人ともハイテンションで進行。
もちろん、2合瓶も2本目となっていた。
ガタッ、いきなり竿が持ち込まれて、まずキロにちょい足りないヤツ。
で、続いて同型をもう1匹。私が2枚釣ってF君を促す。
明け際のアタリは凄まじかった。
2枚釣ったあとのアタリ全部がF君の竿。
ところがF君、わが小さな愛艇に寝そべると、いちいちハマリ込んでしまう。
2合瓶3本はいってて、いつもより動きが鈍い。
で、彼の体勢整った時、魚はすでにカキ杭のそば。
2回もやり取りすると、杭にスレて道糸から切れる。
で、実に8連発、全部バラシた。
こんなヤツ、聞いたこともない
釣り終わって、「あァ、楽しかった」となにごともなかったようにいう。
彼の気持ちのおおらかなところが、私は大好きだった。
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。