どこかで電話が鳴る。
咄嗟に携帯つかんだが、なにが起きたのか分からない。
「早く支度してください」の声でやっと自分の立場を理解する。
ハザード付けた車が1台。愛弟子が迎えにきていた。
気づいてみると、昨夜の着のみ着のまま。
と、いうことは風呂にも入らず、炬燵で眠り惚けていたらしい。
一旦眠ったとなると始末の悪い寝ぼけ亭主。
何としたかオデコで帰っての半ばヤケ酒。
宵のうちからふて寝していた。
ぶっ飛ばされる暴君なのだ。
一人娘を嫁に出し、二人きりになってから余計に酷くなった。
冷たいコーヒーすすり込み、さて一服と煙草を探す。
あッ、そういえば、昨日、着ていた釣り衣装一式、
友人の車から降ろすのを忘れていた。
まあ、一時の辛抱と我慢して国道の自販機をガチャン。
封を切るのももどかしくくわえて、ライター…と。
これもなかった。
が、彼がコンビニに飛び込んで百円ライター買ってくる。
持つべきは気の利いた弟子。
一筋の煙りも逃さじと肺の奥まで吸い込めば、
ニコチンが毛細血管の隅々まで巡って、寝ぼけた脳を麻痺させた。
福田港に着くまでチエーンスモーク、目眩くらくらのまま船に乗り込んだ。
キャビンに潜り込んで惰眠をむさぼること40分。
「着きました」と、またまた弟子に起こされる。
伊豆半島の山並みを離れた太陽、
その光芒乱してほかの釣船が4、5隻。
弟子はすでに仕掛けを入れて竿先見詰めていた。
遅ればせながらも仕掛けを降ろし、
やれやれと見上げた先の僚船では、
早くもタモが入ってマダイが上がる。
わが船は沈黙。ふた流し目を終えても無言。
ハイ、上げて…という船長の声も、いつになく焦りがある。
今度は大トモに待望のマダイ。
ホッとしたか、船長がマイクつかんでご託宣。
「真面目にやれば釣れるんだからね」
が、船長の焦りを肩がわりしたのが私。
見詰める竿先に何の反応もなく、再び睡魔が襲ってくる。
波の音を聞いてボンヤリ…していると、
そこへ「きたっ」と弟子の大声。
咄嗟に彼の右側にまわり、ドラグを調整して叱咤激励。
深紅の魚体が浮いてきた。心ここにないのはビギナーの常。
見事に心と体が分離して、舞い上がっている。
ワナワナと震える手でハリ外し、
クーラーボクッスに入れて「煙草、ください」だと。
とはいいつつも火を点けて唇に挟んでやる。
旨そうに煙りを吐く彼。
よしよし、煙草なんてものは、こんな時のためにあるもんだ。
舳先にごろりと横になると、エンジンの音と波の音がい~い子守歌
いつしか夢の世界に誘い込まれた。
珍しく家内から反応がなく、
ニャオとでてきたのは、尻尾を立てたミーの奴。
私のことではない、当然ながら自己新記録を釣った愛弟子の話だ。
二階から降りてきた家人に向かい、「今日はパパが釣ったんだよ」。
2歳の娘が顔輝かせ、愛弟子にとって至福の時。
マメなのが身上のわが弟子は、庭に炭を持ちだしバーナーで着火。
師匠が眠っている間に釣った小鯛を乗せ、つきっきりで焼く。
大皿に盛って尻尾をピンと立てた姿造り。
イサキがたった5匹の師匠は、
うしお汁作る弟子から離れて応接間、
ソファーにごろりでまたもや、うたた寝。
弟子のカミさんが、わが家のカミさん迎えにいき、
始まったのがいつもの宴。
ぐちゃぐちゃ笑顔のわが愛弟子。
宴も果てたが、まだ今日の感激を語り尽くせぬ様子。
それを見て、しみじみと弟子のカミさんがいう。
「お父さん、私は親孝行したんだね」と。
その婿がくだんの愛弟子であった。
沖釣りは2人とも結構好き。工夫が釣果にでるタチウオ、カサゴがとくに好き。
ということは、ここでも屁理屈が好きっていうこと。
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