ガラガラ、ピッシン、と落雷の音。
どこやらに落ちた雷を目覚ましがわりに起き出した。
そういえば、今日は釣りの約束があったな…と、
キッチンに行き、冷たいコーヒーを飲む。
起きがけの冷たい液体が胃袋に落ち、と、腰骨のあたりに鈍い痛み。
はて、心あたりはないのにとさすっているうち、
痛みが前にまわって下腹部に激痛。
その頃には体を二つに折って、呻いていた。
そう、私はイシモチだったのだ。
もっと精悍なクロダイぐらいに思っていたが、実はイシモチ。
いわゆる尿道結石。
お産に続く痛さだという。
まァ、この時は2度目だったから、
まだ落ち着いていたが、最初の時は死ぬかと思った。
そこへ玄関のチャイムがピンポ~ン、
釣り支度して現れた愛弟子を呼び込み、救急病院へと運んで貰う。
こういうわけで結石が、と訴えるのも脂汗だらだら。
耐えること30分ばかり、やっと若い先生が現れて、
「レントゲン撮ります。ガマンして起きてください」
尿道の石が膀胱に落ちて痛みが消えた。
座薬貰って家に帰ってきたのが、8時過ぎだった。
「申し訳なかったわね、朝早くから…」と、弟子に朝飯勧める。
それまでどこやらに隠れていた腹の虫がグ~ッと鳴いた。
フトンを蹴ってキッチンにいき、普通に飯を食らい、
普通に新聞読んでいると、「それじゃ、ボク帰ります」と弟子。
「ちょっと、待てっ、行けるよ」といえば、
「いい加減にしてください」と叱られた。
気がつけば隣に弟子が眠っている。
どこに行ったのかカミさんがいない。
今から行くぜ」といえば、「大丈夫ですか」といいつつも、
弟子の目が輝いていた。
みさき貸船のおばチャンに送られて桟橋離れ、
真っ直ぐ向かったのがS字航路。
少し離れて様子を伺えば、結構いい型のキスが入れ食い。
それから70mほど離して、同じ筋に錨を入れた。
そのうちに3年クロダイがきたような、
竿尻上がるアタリがきて、湖内とは思えないサイズの22cm。
「へへっ、こんなもんだ」と私が高笑い。
朝の騒動がなかったように、いつものパターンが展開される。
この調子なら80匹と大口叩いた途端に、潮が変わってピタリとアタリが止まった
場所替えと弟子に伝えて、錨綱手繰ろうとしたら、ルルルルッと携帯電話が鳴る。
思い直してこっちから掛ける。
「パン粉、買っときなさいよ、キスが入れ食いだから.....」
と、受話器の向こうで呆れ声。
弟子のカミさんがでて「パパと替わって」と親子連合軍で攻められた。
あれほどの群れが、まるっきりいなくなってしまった。
あっちだ、こっちだ…と表浜名湖を走りまわっても、
釣れるのは3匹止まり。
ハリに掛かるのはシンコハゼばかりで、メゴチも食いはしなかった。
アサリ採りの船がいなくなると、平日の浜名湖は静かなもの。
錨いれるなんてことは、滅多にあるもんじゃない。
浜名湖まるごと俺のもの…てないい気分。
ここでひとしきり食い立った。
遠州灘でも稀な25cmクラスがキュンキュンと竿先絞る。
カレイ釣りじゃあるまいに、デコレーションたっぷりのテンビン、
チモトは夜光のビーズ玉。
そんなもの、とっちまえ…というのに、この日はいつになく素直でなかった。
三度いって聞かなければ、放っておく。
釣果の差で自分の過ちを噛みしめればいい。
「終わろうか」というのを、「あと5匹釣らせてください」だと。
わが弟子ながら…といおうか、わが弟子だからといおうか、
こうなったら後に引かないのが困りもの。
ピチャピチャと船底叩く波音に、眠気を呼び戻されて眠ってしまった。
「帰りましょう」と肩揺すられて、時計を見れば1時間経過していた。
さて、帰ろうかと立ち上がったら尿意を催す。
湖西連峰に向かって迸らせれば、ツーツーツーと下るくだんの石の感触。
チンコロリンと筒先から落ちて、湖面に漂う泡とともに消えていった。
2000年に腎臓結石の手術をして、釣りは半年のブランク。
アレは痛い。実に痛い。
まだ2つ腎臓に残っている。弟子つまり婿殿たのんまっせ。
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