■痩せると寒い
8kgのダイエットをした。
そこへ久々の寒い冬で、これまでしばらく着なかった、
長袖のアンダーシャツが放せない。
痩せて脂肪が減ると寒い........ を実感した。
寒とは、小寒から節分までのおよそ30日間をいう。
この時期を旬とする魚には、寒ブリ、寒ビラメなどと寒の字が付く。
モノの本にこうあった。
 『寒の魚は身が引き締まって美味なり、
  秋は小魚多く飽食して脂肪過剰となるが、
  水温低下期に当たって魚体を絞られ、適度な脂の乗りとなる』
食うという視点からいえば、まさにこの通り。
が、釣り人の目からみれば、やや違う気がしないでもない。
魚は変温動物。体の周りの水温と体温が一緒になる生き物だ。
夏に比べて水温低下期には2割増の脂肪を蓄えるのも、
厳しい冬に動くためのエネルギーを溜め込むにほかならない。
活動の適水温が高い魚だと冬はじっと動かず、
蓄えた脂肪で春までの耐乏生活を送る。
食欲の秋に飽食して体重が増え、衣服の厚い冬は委細構わず、
薄着となる春に慌てるのは私だけではなかろう。
去年までの私は、寒のうちは腹ボテに脂肪を抱えたままだった。
が、極地で遭難でもした場合、
痩身の人よりは一日ぐらい余計に生き延びる可能性がある…らしい。
『灯ともす頃、歩く銀座…』と歌ってアイドルとなった和泉雅子さんが、
極地探検から帰ったら真ん丸の肥満オバサンに変身していた。
これも同じ理由というのを、痩せて寒がりとなった今年の私は信じられる。
●縁側とコラーゲン
ヒラメに漢字を当てると鮃、まさしく平ったい魚。
ヒラメの刺し身で珍重されるのがエンガワで、
シコシコと歯ごたえがあって旨い。
『夏と鮃は縁側がいい』とはエアコンが普及する前の話。

ヒラメやカレイは全身を波打たせるように泳ぐ。
この運動筋肉がぐっと締まって美味…というわけだ。
エンガワとは尾鰭と背鰭にちかいところの身を指し、
コラーゲンという精力の付く成分を含むそうだ。
コラーゲンとは蛋白質の一種で、
細胞膜を強固にする力があり、皮膚の若返りに効果ありとか。
そろそろ私もヒラメ釣りに精をだせねばならない。
ヒラメとカレイの違いを見分けるのに『左ヒラメの右カレイ』という。
通常体にした時に目がどっちにいくかなのだが、
大多数はこうであるということ。
左に目のあるカレイもあって、なかなかにややこしい。

孵化して3週間は、ヒラメもカレイも普通の魚と同じく側偏形。
ヒラメの場合は25日ぐらいから右目が移動し始める。
そして目が頭の上に回った時、変態が完了して背を上にして泳ぐようになる。
大きいからヒラメかというとそうばかりではなく、あのオヒョウはカレイの仲間。
大鮃と書くが目は右に付いている。
鮃と名の付くシタビラメもウシノシタ科で、これもカレイの仲間。
ちなみに漢字の鰈は、蝶のように平たいところからだという。
形はまさにウシノシタ。焼き肉のタンだ。
が、本来はあまり旨い魚ではない。高級魚と思わせたのは、フランス料理のお陰。
初めてこの魚を釣った時、ヒイ婆ちゃんが夜なべで編んでいた藁草履を思い出した。
九州地方でクッチョコ、山口でイタジョウラ、英語圏でもソールというらしい。
思いはいずこも同じ、草履や靴底を連想するらしい。
●城下カレイはマコガレイ
大分県の別府湾日出城址の下で捕れるカレイを、城下カレイという。
淡水の湧く海底に棲むがゆえに美味なのだそうだ。
旧日出城主木下氏の紋所が体表にあるとは、お国自慢の一つ。実はマコガレイなのだ。
浜名湖で馴染み深いのは、マコガレイとイシガレイ。
イシガレイは体表に小さな突起物があって、石のように見えるからイシガレイ。
これは成魚になってから真皮上の鱗が石灰化したもの。
分布的には北のイシガレイ、南のマコガレイだが、
浜名湖は両種の交わる混棲域で、11月に外海から湖内へ乗っ込んでくる。
江戸時代にはこの時期にお目見えするカレイを霜月鰈と呼んだという。
浜名湖にはピッタリの粋な名前で復活させたいぐらい。

春先に浜名湖で釣れる2~3kgの巨大カレイがイチョウガレイ。
2~3月に1シーズンで数枚、潮通しのよい舞阪ミオやT字堤前で釣れる。
イッチョガレイだとの説もある。
漁師がいくら頑張っても、1匹ずつしか釣れない…のが由来というが、真偽は定かではない。
本名はホシガレイ。
この宝籖を当てるようなイチョウガレイを釣友が釣った。
船のイケスから上げて3時間。魚拓を取ろうと墨を塗ったら最後の一撥ね。
障子やら襖に墨が飛び散って大騒ぎ、生命力の強い魚ではある。
大皿3枚に大盛りの刺し身、座敷に溢れるほどの人を呼んでも食べおおせなかった。
●ヒラメは5枚おろし
普通の魚は3枚オロシだが、ヒラメやカレイは5枚オロシ。
まず包丁は背の真ん中の筋目に沿っていれ、次に左側を肩口から尾におろしていく。
その次は向きを変えて腹身をおろす。
腹側を同じようにおろせば、上身と下身で各々2枚ずつ。
中骨を入れて計5枚。ただし、2kg以上のヒラメとなると身の硬いのが難
できれば一日寝かせておきたいが、我慢できなければ薄造りにする。魚シャブもいい。
皿の模様が透けて見えるような薄造りはフグ刺し。
ひと昔前ならわれわれ庶民の口には到底入らなかったシロモノだ。
最近はグルメ志向のオネーちゃんたちの好きなものベスト5に入っているとか。
ご存じのようにフグは《テトロドトキシン》という猛毒を持つものが多い。フ
グは食いたし、命は惜しし。
その昔、フグの毒に当たると、首だけ出して土中に埋めたとか。
■付記
フグはなぜフグ毒で死なないか。
テトロドトキシンは神経を麻痺させる毒で、呼吸ができずに死に至る。
フグは自らの毒をシャットアウトする機能を持っているとか。