■恵みの雨
浜松で23ミリ、渓流ファン待望の雨が降った。
いつもより、ちょっと早く目覚めると窓を叩く雨。
カーテン開けてみればちょうど手頃だ。
そういえば、昨日の帰宅時は小雨、
明日あたり出掛けてみようかと思いはしたが、その後少し呑みすぎた。
仕事を始めたものの雨音ばかりが耳につき、どうにも尻が落ち着かない。
で、渓流の相棒に電話いれれば、
向こうも同じ気持ちで、たちまち明日の話がまとまる。
噺決まって昼からは仕事に没頭できた。
夕方に空見上げれば、端の方に青空が覗く。
もう少し降ってくれ…と祈りながら支度すませる。
と、相棒からの電話。昼から行ってきた…という。
全部で20匹、尺が1本。
ほとんどの川が濁流で天竜水系早木戸川での成果。
やられたっ。
早寝のつもりが、久しぶりに興奮しているのか寝付かれない。
マイルドウオッカをダブルであおって、やっと瞼が重くなった。
●みどり湖の朝
3時集合、スバル4WDに乗り込んで、
R257からR151へと奥三河に向けてひた走る。
まずは古真立川に向かう。
新野峠に源を発し、大入川をせき止めたみどり湖に注ぐ。
この豊根ダムは天竜川発電所群の一つ、
R151から豊根の集落で右折して大入川を下り、
やがてバスクリン色したみどり湖へ至る。
満月にちかいお月さまを車窓の右に見て走ってきたが、
緑色した湖畔に下って白々と夜が明けた。
ダム工事犠牲者を祀る神社をすぎると、
すぐにアーチ型の橋が見え、これが古真立川の流れ込み。
途中にもう1本ある沢は永久禁漁。
古真立川中流部の禁漁区を挟み、下流に相棒、上流に私。
増水した形跡はあるがすでに平水。水色も澄んでいる。
昨日の雨で魚が散っているはず、望みはこれ。
が、寒気が戻って、渓の冷気が肌を刺した。
やはり、朝の2時間は魚が動かず、
ここぞと思うポイントでもアタリがなかった。
8時、初めて目印がツーと横に走った。
会心の合わせで、朱点も鮮やかな22cm。今年初めての1尾だ。
雨が降るまでと満を持してきただけに、久々のアマゴに心が躍る。
9時、一旦道路に上がって相棒と合流し、再び渓に降りる。
2つ目の渕で少し良型を釣った。
掌の中で跳ねるアマゴの感触を楽しみつつ、渓底でニヤリ。
前年秋の放流魚は半天然化してサビを残していた。
その時背後から、いいカタだね...... と声掛けられてびっくり。
先客が二人、上流にいて下ってきたと相棒。
それまで、と竿をたたんで道路に上がり、
どこにいくかと思案しながら一服する。
●奥三河の渓流
この周辺の河川はほとんどが新野峠に源を発する。
古真立川は大立で間黒川と合流して大入川に注ぐ。
下流のバックウオーター部は、みどり湖で成育した超大物の可能性がある。
古真立川を天竜川方向にひと山越すと、
漆島川、井戸川、虫川が天竜川に流れ込む。
これら天竜水系の川は佐久間ダム湖上りの天然魚。
さらに新野峠より早木戸川が天竜川に落ちる。
源流部は平凡な細流だが、
新野の町をすぎると落差はきつくなり、絶品の渓相を形成する。
支流大河内川の合流点あたりより、天竜川までアマゴがいる。
早木戸川本流は渓深く通らずの連続、中級以上向きである。
坂宇場川も新野峠をR151、遠州街道沿いに流れる。
上流部は護岸があってアマゴの棲む環境にないが、
中流部より放流量も多く大入川合流点まで釣りになる。
大入川にアユが放流されると、坂宇場川にアマゴが遡上するという。
完全に護岸がなされ、道路には車の往来激しく、
野趣には欠けるが簡便であるので人気がある。
大入川は津具より発し、坂宇場川、古真立川を併合して天竜川に落ちるが、
途中で大入渓谷を形成する。
大千瀬川上流部には布川渓谷があり、大きな渕が多くカタはよい。
中流部の静岡県側には東薗目川、西薗目川、和山間川があるが、
降雨時水量豊富でないと釣りにならない。
とんだアクシデント
川を越えようと衆議一決。
勢いよくリアハッチを相棒が閉めた。途端に、アア~。
放り込んだ上着に車のキー、ロックしてしまった。
相棒は一級整備士で開ける方法は知っているが、
山の中のことゆえ針金1本あるわけがない。
ガラスを割るよりはと、最後部の窓枠のゴムをナイフで剥がし、
やっとキーが手に入る。
ほっとして時計をみれば昼はとっくに過ぎていた。
峰橋の水場で昼食の支度。
ブタンガスのコンロで、鍋焼きうどんを作り、
冷たくなった握り飯をフライパンで焼く。
熱いうどんが腹に入り、支度中に呑んだワンカップが暖まって、知らぬ間にホロリ。
峰橋から2.5kmに交差点、左折は坂宇場。
右折すると富山村を下って天竜へ、佐久間ダムより1時間に位置する。
JR飯田線の大嵐駅にちかい。天竜水系は標高差がきつく、
何段かの滝の連続で上級者でも大変。
天然アマゴの数は多くはなく、一年にわずかの天竜上りが釣れる。
当初の予定では、この交差点より天竜水系にでるつもりだった。
が、交差点の手前で橋の掛け替えで全面通行止め。
やむなく新野峠より長野県に入る。
新野の町をすぎ売木峠を下って阿南町へ。
いつも水量豊かな和合川を狙ったが、またしても最下流の発電所で通行止め。
やむを得ず売木川に向かう。売木川はまだ雪が深く竿を出す状態になかった。
川の様子を見るつもりで上流に向かったが、
さすがの4WDも滑りながらのあえぎあえぎドライブ。
予想通りに売木の集落は一面の雪景色だった。
畑も山も雪に埋もれて目が痛いほど。
で、雪代が流れて水量はたっぷりのササ濁り。
しかし、サビの抜けないアマゴを釣るにしのびず、再び新野峠にい向かった。
夕暮れの坂宇場川
売木集落の分岐点では、道路標識に注意しないと峠を一つ分損をする。
左折すると新野の町、直進して新野峠のロータリー。
和合川、売木川は落合ダムで合流し、これより下流は和知野川。
落合ダムで取水するので、和知野川は渓相のわりに水量が乏しい。
和合川の渓相は素晴らしく大場所の連続。
木曽畑から和合発電所までが釣りになる。
これより上流は浪合川となり、漁区が異なって三州街道沿いは解禁が遅い。
売木川は下流より下宮城集落までは取水口があるため、
平水時は水勢も弱く釣りにならない。
取水ダムより上は一変して豊かな流れだ。
上流部は岩倉川、前川、軒山川に分かれる。
岩倉川は岩倉貯水池より平谷峠まで、
前川は売木集落より中央を流れて新野峠へ上っていく。
軒山川は売木川の本流で、茶臼山カントリークラブ下まで続く。
この3つの川はイワナ域である。
和合、売木ともに上流部はイワナ、アマゴの混成域。
峠を下って坂宇場川を覗いてみた。すでに夕闇迫り、川は薄暗い。
私は宇連で川に入った。が、道路のある崖の補修工事で川底は荒れていた。
ま、いいか。家族分の3匹がクーラーボックスの中にある、と竿納め。
■付記
昭和52年早春に、T誌掲載の釣行記。
最もよく渓流釣りにいっていた頃だ。
山好きと釣り好きの両方を満たしてくれた。
文章の端々に鈴野藤夫氏の影響がみられる。