■2001年の謎

昨年の初冬から遠州灘と浜名湖には、例年にない不思議なことが続いていた。
どうしても解けない謎であった。

つい、先日、それが一気に解ける情報を頂いた。
それをもとに、これまでの推移を考えてみると、納得がいくのである。

ローカル釣り雑誌を長いこと作っていると、釣況と海況の結び付きが見えてくる。

起承転結がみえるのだ。乗っ込みが遅い、
あるいは早い…これには必ず、引き金となる現象がある。

2001年の晩秋から況に至るまで、遠州灘には異変が続いた。

まずは、舞阪港に大豊漁のメヒカリが揚がり、東海沖地震がくるとの噂が流れた。

その風聞が消えないうちに福田港の東堤でクロダイが釣れ始めた。

水温は11℃、クロダイが食うとは思えない状況の中であった。

その次には、福田沖の中深海でアマダイ、メダイが盛んに釣れ始める。

なにかあるぞ........ と思って当然の出来事が相次いだのだった。

●冷水塊の移動

昨年の夏以降、黒潮は大きく蛇行して八丈島の南を流れていた。
その内側には冷水塊が3年も居座っていかのだ。

そして、黒潮が直進傾向に変わったのは10月。

内側にあった冷水塊は2つに収縮され、11月に黒潮がほぼ直進傾向となったとき、
内側にあった冷水塊は熊野灘にあった。

それが直進流路に変わると、熊野灘から押し戻された冷水塊はまた遠州灘に滞留した。

その冷水塊が天竜川沖で黒潮に押し潰される形で沿岸に拡散したらしいのである。

水温の低い塊は天竜川海舟の溝を伝わり、海陸棚に拡散し始めたのだ。
これが、ちょうど正月頃と推察される。

ここで遠州灘の地形を説明しておこう。天竜川河口には「天竜川海舟」という深場がある。

これは氷河期の海水位が何百メートルも低い時の渓谷の跡だと云われる。

海岸線がいまの位置に落ち着いてからは、暴れ天竜が土砂を吐き続けた。

それは沈溺谷であった浜名湖の原型の湾口を閉じ、
最終的には淡水湖を造るほどの年月と量である。

したがって、天竜川海舟を境として東西の海底は様子が異なる。

西側は吐き出された土砂で浅い。御前崎方向からきた海流が天竜川河口で沖に向かう。

これは、砂の瀬が河口東岸に張り出しているからだ。
の地形を覚えておくと、推理が成り立つのである。

●そして、冷水塊は

水温の異なる水域は規模が大きいほど交わる事はない。
黒潮が直進となって、熊野灘から冷水塊を押し戻してきた。

潮岬から房総の沿岸はちょうど弓形のように凹んでいる。

一番凹んでいるところは伊勢湾口なのだが、この周辺は大陸棚が遠いのだ。

で、押し戻された冷水塊は福田沖の大陸棚のポケットに潜り込む。
さらに黒潮がプレッシャーをかけてくる。

冷水の塊は深海から天竜川海舟を伝わって沿岸に這い上がってきた。
この経過を観測していたデータを聞いたのである。

まず、福田で1月からクロダイが釣れ続いた謎を推理してみる。
大陸棚のカケアガリに水温の低い底潮が押し寄せてきた。

水深40mの福田沖魚礁周辺に落ちて越冬していたクロダイは、
辛抱たまらず手前の15mのカケアガリに逃げ込んできた。

それを東堤の撒き餌が堤防周りに呼び込んだのではないか。

この裏付けは、沖釣りによるアマダイ、メダイの例年にない釣果でもできる。

アマダイ、メダイは大きな群れを作らない魚とされている。

大陸棚周辺に拡散していたものが、
冷水の塊に追われて70~110mのカケアガリに密集していた…と考えれば辻褄は合う。

舞阪沖の大地震の噂のもとになったメヒカリも同じ理由の好漁獲ではなかったか。

冷水の塊が深海から天竜川海舟を伝わってきた水温の低い潮が、浅瀬にきて湧昇する。こ

れが西風に吹かれて接岸する。

天竜川河口から3kmほど東にあたる平松海岸は、
河口の駒場海岸より2℃ほど低かったという現象もこれで説明がつく。

●福田港のクロダイは2群あった

この推理の途中で、はからずも福田港につくクロダイには2群れがあるらしいことに気づいた。

これまで、沖之須沖の水深40m付近のタイホー根辺りが越冬場所だと云われた。

それは、沖根でクロダイが釣れ、3月中旬には沖之須に接岸し、
それから同笠で釣れるという例年通りの経路をたどったいたからだ。

が、今冬に接岸したクロダイは、福田沖魚礁からの群れであるようだ。

3月中旬には例年通りに沖之須へクロダイが接岸してきたからである。

天竜川西岸の三軒屋は、例年であれば福田港と同時開幕をする。

福田港で厳寒期でありながら良型クロダイが連日釣れていても、三軒屋は沈黙していた。

冷たい水の塊は天竜川河口瀬の壁に阻まれて、西側の瀬には上がってはこなかった。

たとえ、上がっても季節風に吹き払われたかもしれない。だから、
河口瀬沖で越冬しているクロダイは逃げださなかったのだ。

●浜名湖に謎は残る

この仮説に矛盾がないわけではない。

三軒屋沖のクロダイが動かなかったことと、
浜名湖へ早々に入湖したクロダイ、キビレの動きが相反するのである。

浜名湖沖の越冬場所は、今切沖の水深40m、人工魚礁付近だと云われている。
ここの魚は早くから動いているのだ。

また、ここ6年ほど続いた「早期は下げ潮で食う」というセオリーが今年は逆転した。

それ以前のセオリーであった「水温の高い上げ潮で食う」に戻っている。

今冬は気温が低く、湖内水温は暖冬以前のレベルであった。

だから、外海から入ってくる水温の高い上げ潮で食うと説明はできるが、
そうした環境が不完全な浜名湖になぜ、
クロダイ、キビレが、
例年より早く接岸してきたのか。謎は残っている。

海図を丹念に眺めてみた。天竜川河口から水深40mラインは続いている。

仮に冷水が今切沖までに至り、逃げ出したとしたら三軒屋も同じ条件となっているはず。

これは三軒屋の今季の釣れ具合が証明してくれると思っている。

例年より釣況が乏しいものであれば、三軒屋沖のクロダイも逃げ出していたことになるだろう。

■付記

例年と異なる現象が起きる、この頻度は年々多くなる。

が、3ヶ月ほど黒潮の動きなど視点を広くして観察していると、推理がなりたってくる。

これが面白い。こと浜名湖の開幕予想は、この15年ほど外した事のないのが自慢である。