■八丈小島

上物釣りに転向して1年目くらい、八丈島釣行に誘われた。
実は、このメンバー、ドングリの背比べだったのだ。つまり、腕前はどっこい、どっこい。
かなり興奮して、ほとんど眠らずに八丈島へ着き、
渡船に乗り込むと向かった先は八丈小島。もう、たまらん。

尾長グレの本拠地だった。
あたふたと竿を出し、コマセを打ち、そのコマセに海底から渦巻いて出てくる外道達に、
興奮は極致に達した。仕掛けを振り込む。サラシの脇をウキが沖に向かう
フワァ...フワァとウキが沈んでいった。合わせた途端、そのまま真下に突っ込んでいく。
耐える、耐える。次の瞬間、ほんとに音をたててハリスが切れた。パッチン。

4号のハリスを5号に換える。それでもパッチン。なす術がない。
45cmまではなんとか取る。が、それ以上は全部ハリスが、ハチ切れる。
全部で6枚くらいバラシただろうか。しまいには仕掛けを入れるのが嫌になってきた。
45cmまでは数枚釣ったものの、目的はその上のサイズだった。
敗北感にまみれて八丈島を後にする。

●ビデオに学ぶ

疲れきって家に帰った。精神的な疲労が大きかった。
当時、最強といわれた竿を買っていったのだ。
傷も何もない結んだばかりのハリスが魚の力で切れてしまう。
当時の自分のまわりは底物師ばかり、聞く人がいない。そこでビデオを買ってきた。

仲間達を呼んで一緒に見る。同じ八丈小島だった。
関西の名手達が60cmちかい尾長グレをいとも簡単に上げる。
2回見る。3回目を見る。それまで無言。

4回目くらいで分かってきた。
5回目を見て、ため息をつきながらやっと会話が始まる。
最も短い時間で上がるのが江頭さんだった。ヘチを帆掛け釣法で攻める。
スルスルの名手である。

ウキが沈み始めると、竿先がそれについていき、合わせた瞬間には、
下へ引き込む魚の力に対して竿の反発力が最も活きる状態になっている。
多少強引に、それほどタメもせず、55cmの尾長グレが浮いてきてしまう。
ただ、突っ込んだ時の動きは機敏だった。魚に体がついていく。

最大のテンションを魚に与えながらも、柔軟に動くのだ。少し見えてきた。

次に、峯さんの釣りを見る。この方は実際の釣りを拝見したことがある
。が、大型魚に対しては職人技を使った。竿は水面と平行でタメる。
竿尻は下腹部に当てたまま。竿の角度は保ったまま、腰をSの字にくねらせて魚を引き上げる。

魚が突っ込む。リールのハンドルを握った手を離しだしまうのだ。
勢いよくまわるハンドルを、グローブをはめた手に当て、バタバタとブレーキングしている。

ついで関東の鵜沢さんを見る。竿捌きは華麗である。
五島列島で釣りを拝見したこともある。
当時の私達の釣りの延長線にある捌きだった。無理がない。
が、関西のお二人に比べると魚の上がるまでの時間は長かった。

●竿の遍歴

さァ、それから仲間3人の再修業が続く。
ちょっと大きめに合えるところ、伊豆下田沖の神子元島へ通い込む。
その頃、竿はGだったのだが、新素材が出始めて ウイスカに換える
Gは腰の柔軟さで突っ込みをかわし、それほど釣り人が関わることもない。
が、その反面、上がるまでの時間がかかる。

ウイスカはGより強かった。40cmまでならスイスイと浮かせる。
ただ、同行2人とも帰りには、そのウイスカが折れていたのだ。バキッ、見事に3つに折れた。

このウイスカはよく折れた。その強さゆえに折れたのだと思う。
それを捌く技量も足りなかったかもしれない。
が、竿はそんな難しいものであっては、誰もが使える汎用ではない。
手つかずの3号は誰かに半額で譲った。

しばらくGに戻っているうち、なぜか知らないがお金が貯まった。
上物に転向した時、そこそこの腕になるまではと封印していた石鯛竿を棚から下ろした時でもあった。
30万円握って沼津の菓子屋の大将の所へ相談にいく。和竿がほしかったのだ。
石鯛ひとすじ、和竿しか使わない彼は即座に云った。

「30万だ?? やめとき~」
それでも東作なら最低ラインだぞ、その倍だせ。

すごすごと沼津から帰った私は、Nのボロン翔石鯛を買った。

それでも12万円。そのあと神津島で2kgの小さな石鯛を釣ったのだが、
翔石鯛はその魚をすっ飛ぶように寄せてきた。で、翔磯というボロンの上物竿を買う。
1号、2号、3号。1本が6万円くらいしたと思う。

当時では最高値段の竿だった。
早速、神子元島で試す。混んでいる日で本命の2番本場へは入れなかった。
が、本場横のワンドから仕掛けを入れて40cm級のイサキ、グレが入れ食い。
本場にいた釣り人はビギナーのようで、その入れ食いに圧倒されてか,
ポイントを譲ってくれたのだ。多少は強引に入り込んだ...感じもなきにもしもあらずだが。

本場に入ればこっちのもの。
40cmオーバーが釣れ始めた。ボロンが真価を発揮し始める。
素材的なものだろうか、急な突っ込みはスーと曲がり込んでいって吸収するが、
その曲がり込みで反発が起きて魚を引き上げる。いい竿だなぁ...惚れ込んだ。
しばらくはボロンのmaruの異名を頂いた。

●バブルがはじけて

会社を創立したこともあって、そのあと8年ほどのブランクがあった。
TEAM SEA WINDS に参加したこともあって、
再び磯にいきはじめるとボロンはすでに、ひと時代前の遺物になっていた。
重いのは本人の問題だ...と頑なに使い続けていたのだが、とうとう買い換えることにした。
一番使った1号を渡船に忘れて失念したのもきっかけだった。

SEA WINDS は某社のフィールドテスターを中心としたクラブで、
その彼を磯釣りの虜にしたのは私だった。師弟がいつのまにか逆転していた。
彼に相談する。ちょうど男女群島でのフィールドテストを終えたばかりの彼は、即座にその竿を勧めた。
バブルの絶頂期に10万円以上の高級機がいくつもでたが、あいにく泡がはじけて、
その高級機のコンセプトで手頃な価格の竿を作ったのだ。これがOOSIMA1.5号。

この竿も、それまでの概念を破ったといっていい
神子元島の青根、音を立てて流れる奔流に逆らって40cm級グレを次々と寄せた。
彼がいう。この竿は起重機巻きしてください。
つまり、寄せの強い力と急激な引っ込みを吸収する相反する性質を兼ね備えていたのだ。

竿の高弾力、高反発というのは、実は両刃の剣なのである。

強いということは確かに必要なことなのだが、それゆえに、その強さがハリスに負担を掛ける。
魚が突っ込む。その曲がりは強く引き戻す...という反発になって戻す。
そのまま、釣り人が頑張ってしまえば、ハリスが切れることにもなり兼ねない。
もちろん、極限状態での話である。その必要以上にかかる力を逃がしつつ、
強いテンションを掛け続けるのが釣り人側の技量ということになる。

●竿負け

今年になって2回もバラシをやってしまった。
ゼロハチを使っての話だ。引きを楽しもう....という気持ちが起きていて買った竿である。
が、いざ良型が掛かってみると、ようタメきれんのだ。
魚勝手でまったく主導権を握れないうちに根に持っていかれる。

竿は極限状態を迎えた時、最終的に耐える力を発揮するのは素材だと思っている。
前述したように、それは両刃の剣でもあるのだが、
それを承知していれば、少なくても竿負けすることはない。
これまで紀州釣りに使っていたのはPMAWの1号だが、48cmを釣っても何の不安もなかった。
これを基準に考えてゼロハチにしたのが間違いだったのだ。

筏竿は1.5mの短竿。強烈な引きはダイレクトに腕にくる。
通常の筏竿はカーボン含有率60%くらいだ。これは汎用性を考えてのものだろう。
何度もいうように、強いばかりでは誰もが使いこなせるとは限らない。
1.5mのなかに良型に耐える強靱なパワーと、魚の急激な突っ込みをかわす柔軟性、
この相反する性質を兼ね備えなければいけないからだ。
が、底を切る力が強いのは、やはり、カーボン99%なのである。
竿が短いだけにこの違いは顕著にでる。

私がクロダイ釣りを始めた頃、もちろん、カーボンロッドはなかった。
先輩に教えられたのは、とにかく竿を立てろ...だった。
ノサレることを、竿を立てることで防いだのだ。竿尻は腰に当てる。
グラスロッドの粘り腰は、これでもハリスが切れることなく魚を寄せた。

が、カーボンになって同じ竿捌きではハリス切れが続出した
当時のピーンと張った金属のようなカーボンの反発力は、
竿尻を腰に当てて頑張ってしまっては、ハリスに大きな負担をかけたからだ。
そこで竿尻を体から離し、リールのRDやLBによってかわすという釣法に変わっていく。

●その反動で

ゼロハチの不甲斐なさの反動で、インナーの1号を買った。
カーボン99%である。実際に、紀州釣りでは強すぎるかもしれない。
インナーを使ってみたかった...というのもあるが、
もう一度、極限の竿捌きを体に戻したいという気持ちがある。

2回目のバラシの反省で、あの瞬間に何ができたか...という答えが出てこないのだ。
あと、4秒か5秒耐えてくれたら取った...と思うだけ。悔しくないといえば嘘になるが、
負けた....と、自分の選択が間違いだ...と。挑戦する物ができたとワクワクしているのがほんとのところ。

今度はハリスがブッ飛ぶかもしれない。
が、竿が主導権を握ってくれさえすれば、あとはバラシしても納得がいくのだ。
それは技量が足りない..という一点だけ。この竿を使うことで、
私の技量が試されるかもしれない。それは望むところ、あと2匹くらいがバラスかな。
あいつ、まだ掴めていないな...と笑ってやってください。

■付記

釣りは面白い。実に面白い。竿の選択だけでも、こんなに楽しめる。

5万円もするものをホイホイ換える訳にはいかない。だから、考える。

が、その答えは滅多にない極限状態でしか出てこない。

魚を釣る...という実際の行為の前にこんなに楽しめる、釣りってすばらしい。